都市住民の山村移住による備長炭の技術伝承―― 和歌山県中部山村の事例 ――篠 原 重 則I 緒 言現在,日本の農山漁村は人口減少と人口の高齢 dịch - 都市住民の山村移住による備長炭の技術伝承―― 和歌山県中部山村の事例 ――篠 原 重 則I 緒 言現在,日本の農山漁村は人口減少と人口の高齢 Việt làm thế nào để nói

都市住民の山村移住による備長炭の技術伝承―― 和歌山県中部山村の事例








都市住民の山村移住による備長炭の技術伝承
―― 和歌山県中部山村の事例 ――



篠 原 重 則



I 緒 言

現在,日本の農山漁村は人口減少と人口の高齢化に悩まされ,過疎問題が深 刻である。しかしながら,一方では都市住民の農山漁村への関心も高まってい るといえる。2004年度の農林業白書によると,消費者の多くは国産農産物の 安全性や品質を評価しており,輸入品より割高でも買いたいという声が多いと 指摘している。国産品への消費者の関心をさらに高めるような販売戦略を展開 することが,今後の農業の活性化に必要だとしている1。)
筆者の学究生活は,1962年勤務校下に見られた焼子制度という前近代的な 製炭形態の実地調査2)に始まる。焼子制度とは,親方である炭問屋に隷属した 貧しい製炭者が炭問屋に払下げられた広大な国有林に入山し,木炭を賃焼きす る製炭形態である。製炭作業はほぼ一年を通して営まれるが,その間の生活に
要する食料や日用雑貨品は,親方から現物で前借りする。その前借品代は盆と
せき ぶ
節気に焼分(焼き賃)で清算されるが,なかには前借品代の方が多く,次回も

親方に払下げられた国有林に入山し,山から山へと移動しながら製炭稼業に明 け暮れる者3)もいた。
四国西南地域の製炭業は,技術的には四国東南地域の山村から伝播してきた ことを確認したので,四国東南地域の製炭業の調査に赴く。そこに展開してい る備長炭の製法は大正元年和歌山県より伝播してきたことが判明したの で,1965年の初頭には,和歌山県田辺市の秋津川地区の調査に赴いた。秋津





424 松山大学論集 第17巻 第2号

川地区の備長炭の製法技術は,きわめて卓越したものであったが,そこには薪 炭商に従属した焼子制度の遺制4)もみられた。
筆者の研究は2000年ころから,農林水産物の直売と農山漁村の活性化の研 究5)~9)に移行するが,2003・2004年に和歌山県田辺市の秋津川と,そこに隣 接する南部川村に,梅栽培・販売と山村の活性化の調査に赴くと,そこに都市 からの移住者が,備長炭の生産に励んでいる姿を多く目撃し,伝統的な備長炭 の生産が移住してきた製炭者によって継続されていることに,いたく学問的興 味を覚えた。
伝統的工芸品の生産などにおいては,徒弟制度によって,その技術が新規参 入者に伝えられることは,多くの研究がみられるが1,0),11)農山村においては, そのような事例研究は寡聞にして,あまり聞くことはない。本論文を草した目 的は,いまだ事例研究の乏しい農山村における伝統的生産技術が,都市からの 移住民によって,どのように伝承されているかの解明にある。

Ⅱ 山村定住に関する和歌山県の施策

和歌山県は都市住民の農山村定住に意欲的に取り組んでいる代表的な県であ る。農林水産部内には定住促進課があり,就業相談・生活体験研修1,2)定住の 為の農林業複合経営支援1,3)地域特産品の情報提供などの業務を行っている。
和歌山県定住促進課では,和歌山県 UJI ターンマニュアルという小冊子を発 行しているが,表1は,この小冊子から,都市住民の移住民による備長炭の技
術伝承の盛んな4市町村について,その独自の定住対策を示したものである。
みな べ がわ
これによると南部川村や田辺市など,原木のウバメガシ林の多い紀州備長炭の
おおとう
核心的生産地に比して,その周辺の中津村や大塔村に,都市住民の導入策が積

極的なのは,注目されるところである。





都市住民の山村移住による備長炭の技術伝承 425

表1 和歌山県内独自の定住対策一覧

市町村名 支 援 項 目 支 援 内 容
中 津 村 出産に関する 1子…………3万円
支援制度 2子…………3万円
3子以降……10万円
産業振興に関 紀州備長炭築窯補助……………10~30万円
する支援制度 紀州備長炭製炭技術の伝承……製炭研修所の建築
研修期間:原則1年
遊休農地の賃貸制度……………面積1,000 まで
賃貸料(年間11,800円/千 )
森林組合作業班員等への賃金助成……助成期間:採用後3年
補助率:3/10以内
南部川村 出産に関する 3子…………30万円
支援制度 4子以降……80万円
田 辺 市 就業就学に関 紀州備長炭後継者育成事業費補助金
する支援制度 …紀州備長炭新規就業者に対して,田辺市木炭生産組合員の
方々に製炭技術の指導をしてもらい指導料を補助する。
年間30万円
大 塔 村 結婚に関する 若年結婚祝い金(16~40歳未満)……結婚祝い金10万円
支援制度 縁結び謝金5万円
出産に関する 3子……20万円
支援制度 4子……30万円
5子……50万円
転入に関する 若者定住奨励金(新卒者) ……………………………20万円
支援制度 若者転入奨励金(単身者)……20万円 (家族)……25万円
就業就学に関 新規農業従事者……年間60日以上従事し,10a以上耕作,ま
する支援制度 たは林業に年間60日以上従事したもの…
20万円
住宅に関する 若者住宅対策奨励金(16~40歳未満)
支援制度 建築・購入(70 以上)……一般80万円,辺地100万円
増築(50 以上)……………一般40万円,辺地 50万円
空屋改築 ……………………一般40万円,辺地 50万円
注)和歌山県農林水産部定住促進課(2003):「和歌山 UJI ターンマニュアル」より作成


和歌山県の製炭地域

全国一の高級木炭である紀州備長炭の生産地域として知られている和歌山県 は,木炭全体の生産量では全国の8.1%を占め,全国第3位の生産量を誇る。





426 松山大学論集 第17巻 第2号

表2 全国上位10県の木炭生産量(2003年)

県 名 木炭生産量t 全国比 白炭t 黒炭t
1 岩 手 5,070 23.8% 43( 0.8) 5,027( 99.2)
2 北海道 3,592 16.8 3( 0.1) 3,589( 99.9)
3 和歌山 1,735 8.1 1,675(96.5) 60( 3.5)
4 山 梨 1,267 5.9 5( 0.4) 1,262( 99.6)
5 福 島 991 4.2 50( 5.5) 861( 94.6)
6 高 知 831 3.9 520(62.5) 311( 37.4)
7 熊 本 684 3.2 684(100.0)
8 栃 木 589 2.7 33( 5.6) 556( 94.4)
9 宮 崎 579 2.7 473(81.6) 106( 18.3)
10 群 馬 418 1.9 7( 1.6) 411( 98.3)
全 国 21,300 3,782(17.7%) 17,519(82.3%)
注)林野庁,特用林産対策室資料による。 白炭・黒炭の( )内はその生産比率を示す。



全国1・2位の岩手県・北海道は黒炭生産地域であるのに対して,和歌山・高 知・宮崎の諸県は白炭の生産地域であり,特に和歌山県は全国の白炭の44.2% の生産を占め,高級な備長炭の産地としての名声を博している。
木炭はその製法から窯内消火で生産する黒炭と窯外消火で生産する白炭に分 類されているが,紀州備長炭は白炭の代表である。図1は和歌山県の白炭の生 産量の推移を示すが,これによると,木炭生産の最盛期であった1940年には




(t)
25,000

図1 和歌山県の白炭生産量の推移(1925~2002年)


20,000

15,000

10,000

5,000


0
一 一 一 一
九 九 九 九
二 四 五 五
九 〇 〇 五


一 一 一 一 一 一 九 九 九 九 九 九 六 七 八 八 八 八 五 五 五 六 七 八


一 一 一 九 九 九 八 九 九 九 〇 一


一 一 一 九 九 九 九 九 九 二 三 四


一 一 一 一 一 九 九 九 九 九 九 九 九 九 九 五 六 七 八 九


二 二 二 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 一 二

注)和歌山県特殊林産物需給動態調査による





都市住民の山村移住による備長炭の技術伝承 427

24,184tの生産を誇っていたが,1960年ころからの燃料革命のあおりを受 け,1975年には2,740tと最盛期の8.3%に低下し,以後2,500t以下で推移 し,2002年には1,632tとなっている。


図2 和歌山県の市町村別木炭の生産量(1960年)




県 界








金屋町



中津村

市町村界

木炭生産量(15kg俵)
100千俵
50
10


川辺町



印南町


南部川村

中辺路町



田辺市


大塔村





古座川町

那智勝浦町


日置川町

すさみ町


0 20d





428 松山大学論集 第17巻 第2号

図3 和歌山県の市町村別木炭生産量(2003年)




県 界

市町村界


黒炭 白炭





中津村

300t
100
30
10

川辺町


南部川村


印南町

田辺市



大塔村



日置川町




すさみ町


0 20d


注)和歌山県特殊林産物需給動態調査より作成





都市住民の山村移住による備長炭の技術伝承 429

図2は燃料革命以前の1960年の和歌山県の市町村別の木炭生産量の分布を 示すが,これによると和歌山県の製炭地域は,和歌山県中・南部の山村に広く 展開していたことがわかる。図3は2003年現在の和歌山県の市町村別の木炭 生産量を示すが,原料のウバメガシ林の卓越する南部川村・田辺市を中心に, 北は中津村から,南は大塔村・すさみ町に至る和歌山県中部山村に集中してい ることがわかる。

紀州備長炭の製炭方法

(ア) 紀州備長炭の特性
備長炭は,主としてウバメガシを炭材とする白炭で,ウナギのかば焼き,ビ フテキ等の魚肉の直接加熱,焼きもの料理には最適の燃料で,その加熱効果に ついては多くの実験例がある。その放射エネルギーを測定したところ2~6ミ クロンの波長の放射線が多い。この放射線は肉類に吸収され,その表面温度が 上昇し易く,硬化して内部のうまみ成分を外に出しにくいという。肉の内部の タンパク質は熱分解して,うまみ成分,アミノ酸が生成されるという1。4)



(イ) 紀州備長炭の製法
〔築窯〕
備長炭の生産は,まず築 窯にはじまる。図4は備長 窯の構造を示す。その平面 はいちじく型であり,窯口 から煙道口までは2m80m くらい,縦断面図をみると 炭化室の高さは2m余であ り,約1t前後(15 俵に て60俵程度)の出炭量の




写真1 南部川村嶋之瀬における備長炭炭窯の構築
(2004年3月)
瓦と粘土で構築,備長炭新規参入者(55歳)の窯





430 松山大学論集 第17巻 第2号

図4 紀州備長窯の構造







注)田辺市経済部農林課(1999)「紀州備長炭の世界」p.10より転載


炭窯が一般的である。炭窯は各製炭者の経験をもとに作られるが,1,000度以
ね ら し
上の高温に達する精 に耐えなければならず,石やレンガの内壁を粘土で覆っ

て作られる。窯の耐久期間は短く,天井部分は3~4年,窯全体は長くて14,15 年くらいで築き直さなければならない。窯の再構築は,元の窯の土を細かく砕 いて新しい土と混ぜて使うと耐久性が向上するという。





都市住民の山村移住による備長炭の技術伝承 431

〔原木の伐採と木づくり〕
備長炭の原料は主として,ウバメガシであり,図5に示すように,和歌山県 中南部には広く分布する。ウバメガシの特徴は硬くて重く,水に浮かべても沈 下するという,和歌山県のウバメガシは,臨海部・内陸部に広く分布し,天然 林と人工植栽されたものがある。備長炭の核心的生産地である田辺市秋津川や

図5 和歌山県のウバメガシ林(1996年)





























海岸風衡地のウバメガシ萌芽林地帯 育成された備長炭の原木林で残存
しているウバメガシ林地帯





0 20d


注)後藤伸(1996):ウバメガシ林調査による。
(紀州備長炭熊野会議実行委員会:「紀州備長炭の世界」)





432 松山大学論集 第17巻 第2号


南部川村では,図9に示す ように択伐林仕立で,8~ 10年ごとに伐採さ れ,25 年程度で3回択伐されてい たという,極めて集約的な 萌芽更新がなされてきた。 ウバメガシ林は何窯分焼き の山として原木が売買され てきたが,製炭者は山主か ら択木管理することが義務
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都市住民の山村移住による備長炭の技術伝承―― 和歌山県中部山村の事例 ――篠 原 重 則I 緒 言現在,日本の農山漁村は人口減少と人口の高齢化に悩まされ,過疎問題が深 刻である。しかしながら,一方では都市住民の農山漁村への関心も高まってい るといえる。2004年度の農林業白書によると,消費者の多くは国産農産物の 安全性や品質を評価しており,輸入品より割高でも買いたいという声が多いと 指摘している。国産品への消費者の関心をさらに高めるような販売戦略を展開 することが,今後の農業の活性化に必要だとしている1。)筆者の学究生活は,1962年勤務校下に見られた焼子制度という前近代的な 製炭形態の実地調査2)に始まる。焼子制度とは,親方である炭問屋に隷属した 貧しい製炭者が炭問屋に払下げられた広大な国有林に入山し,木炭を賃焼きす る製炭形態である。製炭作業はほぼ一年を通して営まれるが,その間の生活に要する食料や日用雑貨品は,親方から現物で前借りする。その前借品代は盆とせき ぶ節気に焼分(焼き賃)で清算されるが,なかには前借品代の方が多く,次回も親方に払下げられた国有林に入山し,山から山へと移動しながら製炭稼業に明 け暮れる者3)もいた。四国西南地域の製炭業は,技術的には四国東南地域の山村から伝播してきた ことを確認したので,四国東南地域の製炭業の調査に赴く。そこに展開してい る備長炭の製法は大正元年和歌山県より伝播してきたことが判明したの で,1965年の初頭には,和歌山県田辺市の秋津川地区の調査に赴いた。秋津 424 松山大学論集 第17巻 第2号川地区の備長炭の製法技術は,きわめて卓越したものであったが,そこには薪 炭商に従属した焼子制度の遺制4)もみられた。筆者の研究は2000年ころから,農林水産物の直売と農山漁村の活性化の研 究5)~9)に移行するが,2003・2004年に和歌山県田辺市の秋津川と,そこに隣 接する南部川村に,梅栽培・販売と山村の活性化の調査に赴くと,そこに都市 からの移住者が,備長炭の生産に励んでいる姿を多く目撃し,伝統的な備長炭 の生産が移住してきた製炭者によって継続されていることに,いたく学問的興 味を覚えた。伝統的工芸品の生産などにおいては,徒弟制度によって,その技術が新規参 入者に伝えられることは,多くの研究がみられるが1,0),11)農山村においては, そのような事例研究は寡聞にして,あまり聞くことはない。本論文を草した目 的は,いまだ事例研究の乏しい農山村における伝統的生産技術が,都市からの 移住民によって,どのように伝承されているかの解明にある。Ⅱ 山村定住に関する和歌山県の施策和歌山県は都市住民の農山村定住に意欲的に取り組んでいる代表的な県であ る。農林水産部内には定住促進課があり,就業相談・生活体験研修1,2)定住の 為の農林業複合経営支援1,3)地域特産品の情報提供などの業務を行っている。和歌山県定住促進課では,和歌山県 UJI ターンマニュアルという小冊子を発 行しているが,表1は,この小冊子から,都市住民の移住民による備長炭の技術伝承の盛んな4市町村について,その独自の定住対策を示したものである。みな べ がわこれによると南部川村や田辺市など,原木のウバメガシ林の多い紀州備長炭のおおとう核心的生産地に比して,その周辺の中津村や大塔村に,都市住民の導入策が積Là tích cực, sự chú ý phải được thanh toán trên thời gian. Bincho than bởi sự di cư của cư dân thành phố của công nghệ chuyển 425Bảng 1 Wakayama ở thường trực của riêng mình các biện pháp danh sáchĐô thị tên mục hoạt động hỗ trợ1 của Nakatsu làng sinh con. 30000 JPY Hỗ trợ các hệ thống 2. 30000 JPY 3子 hoặc mới hơn. 100000 yên Về Kishu binchotan than xây dựng lò khả năng tiếp cận để xúc tiến công nghiệp. 10-$300000 Truyền thuyết về hệ thống hỗ trợ trong Kishu binchotan than than công nghệ để... Than đào tạo tòa nhà Trung tâm Giai đoạn đào tạo: thông thường một năm Thuê hệ thống đất hoang. Khu vực 1000 Tiền thuê nhà (1000 / 11800 yên / năm) Lương trợ cấp cho công nhân hợp tác xã Lâm nghiệp, v.v... Grant giai đoạn: tuyển dụng sau 3 năm Grant tỷ lệ: 3 / 10 trong vòng3 trên miền Nam Kawamura sinh con. 300000 yên Hệ thống hỗ trợ cho 4 trẻ em sau đó. $ 800000Tanabe thành phố việc làm nghiên cứu về liên quan đến Kishu binchotan than kế thừa phát triển quỹ tài trợ Hệ thống hỗ trợ. Kishu binchotan than người lao động mới nhất, Tanabe, quan hệ đối tác sản xuất than gỗ Những than-kỹ năng và sản xuất hỗ trợ trong tài liệu giảng dạy. $ 300000 mỗi nămLớn trẻ cưới lễ kỷ niệm vàng trên tháp làng đám cưới (16-40 năm). 100000 yên cho lễ kỷ niệm đám cưới Hỗ trợ hệ thống mai mối thưởng 50000 yên 3 trẻ em khi sinh con. Yên 200000 Hệ thống hỗ trợ cho 4 trẻ em. 300000 yên 5 trẻ em. 500000 yên 転入に関する 若者定住奨励金(新卒者) ……………………………20万円 支援制度 若者転入奨励金(単身者)……20万円 (家族)……25万円 就業就学に関 新規農業従事者……年間60日以上従事し,10a以上耕作,ま する支援制度 たは林業に年間60日以上従事したもの… 20万円 住宅に関する 若者住宅対策奨励金(16~40歳未満) 支援制度 建築・購入(70 以上)……一般80万円,辺地100万円 増築(50 以上)……………一般40万円,辺地 50万円 空屋改築 ……………………一般40万円,辺地 50万円注)和歌山県農林水産部定住促進課(2003):「和歌山 UJI ターンマニュアル」より作成 和歌山県の製炭地域全国一の高級木炭である紀州備長炭の生産地域として知られている和歌山県 は,木炭全体の生産量では全国の8.1%を占め,全国第3位の生産量を誇る。 426 松山大学論集 第17巻 第2号表2 全国上位10県の木炭生産量(2003年)県 名 木炭生産量t 全国比 白炭t 黒炭t1 岩 手 5,070 23.8% 43( 0.8) 5,027( 99.2)2 北海道 3,592 16.8 3( 0.1) 3,589( 99.9)3 和歌山 1,735 8.1 1,675(96.5) 60( 3.5)
4 山 梨 1,267 5.9 5( 0.4) 1,262( 99.6)
5 福 島 991 4.2 50( 5.5) 861( 94.6)
6 高 知 831 3.9 520(62.5) 311( 37.4)
7 熊 本 684 3.2 684(100.0)
8 栃 木 589 2.7 33( 5.6) 556( 94.4)
9 宮 崎 579 2.7 473(81.6) 106( 18.3)
10 群 馬 418 1.9 7( 1.6) 411( 98.3)
全 国 21,300 3,782(17.7%) 17,519(82.3%)
注)林野庁,特用林産対策室資料による。 白炭・黒炭の( )内はその生産比率を示す。



全国1・2位の岩手県・北海道は黒炭生産地域であるのに対して,和歌山・高 知・宮崎の諸県は白炭の生産地域であり,特に和歌山県は全国の白炭の44.2% の生産を占め,高級な備長炭の産地としての名声を博している。
木炭はその製法から窯内消火で生産する黒炭と窯外消火で生産する白炭に分 類されているが,紀州備長炭は白炭の代表である。図1は和歌山県の白炭の生 産量の推移を示すが,これによると,木炭生産の最盛期であった1940年には




(t)
25,000

図1 和歌山県の白炭生産量の推移(1925~2002年)


20,000

15,000

10,000

5,000


0
一 一 一 一
九 九 九 九
二 四 五 五
九 〇 〇 五


一 一 一 一 一 一 九 九 九 九 九 九 六 七 八 八 八 八 五 五 五 六 七 八


一 一 一 九 九 九 八 九 九 九 〇 一


一 一 一 九 九 九 九 九 九 二 三 四


一 一 一 一 一 九 九 九 九 九 九 九 九 九 九 五 六 七 八 九


二 二 二 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 一 二

注)和歌山県特殊林産物需給動態調査による





都市住民の山村移住による備長炭の技術伝承 427

24,184tの生産を誇っていたが,1960年ころからの燃料革命のあおりを受 け,1975年には2,740tと最盛期の8.3%に低下し,以後2,500t以下で推移 し,2002年には1,632tとなっている。


図2 和歌山県の市町村別木炭の生産量(1960年)




県 界








金屋町



中津村

市町村界

木炭生産量(15kg俵)
100千俵
50
10


川辺町



印南町


南部川村

中辺路町



田辺市


大塔村





古座川町

那智勝浦町


日置川町

すさみ町


0 20d





428 松山大学論集 第17巻 第2号

図3 和歌山県の市町村別木炭生産量(2003年)




県 界

市町村界


黒炭 白炭





中津村

300t
100
30
10

川辺町


南部川村


印南町

田辺市



大塔村



日置川町




すさみ町


0 20d


注)和歌山県特殊林産物需給動態調査より作成





都市住民の山村移住による備長炭の技術伝承 429

図2は燃料革命以前の1960年の和歌山県の市町村別の木炭生産量の分布を 示すが,これによると和歌山県の製炭地域は,和歌山県中・南部の山村に広く 展開していたことがわかる。図3は2003年現在の和歌山県の市町村別の木炭 生産量を示すが,原料のウバメガシ林の卓越する南部川村・田辺市を中心に, 北は中津村から,南は大塔村・すさみ町に至る和歌山県中部山村に集中してい ることがわかる。

紀州備長炭の製炭方法

(ア) 紀州備長炭の特性
備長炭は,主としてウバメガシを炭材とする白炭で,ウナギのかば焼き,ビ フテキ等の魚肉の直接加熱,焼きもの料理には最適の燃料で,その加熱効果に ついては多くの実験例がある。その放射エネルギーを測定したところ2~6ミ クロンの波長の放射線が多い。この放射線は肉類に吸収され,その表面温度が 上昇し易く,硬化して内部のうまみ成分を外に出しにくいという。肉の内部の タンパク質は熱分解して,うまみ成分,アミノ酸が生成されるという1。4)



(イ) 紀州備長炭の製法
〔築窯〕
備長炭の生産は,まず築 窯にはじまる。図4は備長 窯の構造を示す。その平面 はいちじく型であり,窯口 から煙道口までは2m80m くらい,縦断面図をみると 炭化室の高さは2m余であ り,約1t前後(15 俵に て60俵程度)の出炭量の




写真1 南部川村嶋之瀬における備長炭炭窯の構築
(2004年3月)
瓦と粘土で構築,備長炭新規参入者(55歳)の窯





430 松山大学論集 第17巻 第2号

図4 紀州備長窯の構造







注)田辺市経済部農林課(1999)「紀州備長炭の世界」p.10より転載


炭窯が一般的である。炭窯は各製炭者の経験をもとに作られるが,1,000度以
ね ら し
上の高温に達する精 に耐えなければならず,石やレンガの内壁を粘土で覆っ

て作られる。窯の耐久期間は短く,天井部分は3~4年,窯全体は長くて14,15 年くらいで築き直さなければならない。窯の再構築は,元の窯の土を細かく砕 いて新しい土と混ぜて使うと耐久性が向上するという。





都市住民の山村移住による備長炭の技術伝承 431

〔原木の伐採と木づくり〕
備長炭の原料は主として,ウバメガシであり,図5に示すように,和歌山県 中南部には広く分布する。ウバメガシの特徴は硬くて重く,水に浮かべても沈 下するという,和歌山県のウバメガシは,臨海部・内陸部に広く分布し,天然 林と人工植栽されたものがある。備長炭の核心的生産地である田辺市秋津川や

図5 和歌山県のウバメガシ林(1996年)





























海岸風衡地のウバメガシ萌芽林地帯 育成された備長炭の原木林で残存
しているウバメガシ林地帯





0 20d


注)後藤伸(1996):ウバメガシ林調査による。
(紀州備長炭熊野会議実行委員会:「紀州備長炭の世界」)





432 松山大学論集 第17巻 第2号


南部川村では,図9に示す ように択伐林仕立で,8~ 10年ごとに伐採さ れ,25 年程度で3回択伐されてい たという,極めて集約的な 萌芽更新がなされてきた。 ウバメガシ林は何窯分焼き の山として原木が売買され てきたが,製炭者は山主か ら択木管理することが義務
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