第三章 種族間戦争編第百三十二話 別れる勇者たち「レベルはそこそこにあるだろうが……お主たちよ、戦場は遊び場ではない。その程度の覚悟しか持たず、本当に無事に帰れると思っていたのか? 見たところ、人が死ぬところも見たことが無いように思えるが?」「…………」 千佳は言葉を失ったかのように固まっている。「それとも、送り出した国王は、お主たちをただの捨て駒として扱っているのか?」「そ、そんなわけないじゃないっ!」 精一杯声を張り上げて否定する。「なら何故この場にいるのだ? 少し考えれば分かるはずだろう? 今のお主たちをここに送り出せばどうなるかなど。ハッキリ言って兵士にもなれていないお主たちは、何を以って国王に送り出されて来たのだ?」 それはオーノウスにとっては純粋な疑問だったのだが、千佳には強烈過ぎる問いだった。そう言えば、何故国王ルドルフは、人を殺したことも無い自分たちをここへ少数精鋭で送ってきたのだろう? 本当に【魔国】を攻め落としたければ、もっと戦力を用意するはずである。獣人だって完全に信頼できるわけがないのだ。それなのに何故少ない人数でここへ? 分からない! 分からない! どれだけ考えても分からない!「ち……か……」 混乱する彼女を現実へと引き戻したのは大志の声だった。痛みのお蔭で幾分か冷静になったのか、その表情からはもう無謀な突撃などしないように見えた。「大志! 大丈夫なの?」「あ、ああ。腹痛いけど……多分、手加減された」「え?」 大志は腹を押さえながらオーノウスに視線を向ける。「アイツは全然全力じゃなかった。多分……レベルは遥かに向こうの方が上だ。しかも身体能力に特化してる感じがする」「ほう、先程と違って良い分析だ」 オーノウスは初めて大志に感心した。一撃受けただけでそこまで相手の力量を図れるとは、さすがは勇者の称号を持つだけはあると思った。「魔法だけが武器ではない。それが分かっただろう」 よく見るとオーノウスの体はヤバイくらいに引き締まっている。拳を突きつけられて分かったが、まるで鋼のような感触だった。彼の体は鍛えに鍛え抜かれていると、冷静になった頭のお蔭で分析することができた。「さて、素直に投降するのであれば命だけは助けよう。だがこれ以上抗うというのなら、《クルーエル》の名に懸けてお主たちに地獄を見せよう」 物凄い覇気がビリビリと伝わってくる。冷静になって改めて目の前にいる存在が化け物だということが分かる。(それでも、俺たちが力を合わせれば倒せる……けど) そう、少なくとも今戦えるのは自分と千佳だけなのだ。本気で戦えば手傷くらいは追わせられるだろうが、倒すにはやはり魔法が不可欠だ。だがその魔法を使おうにも、きっと二人では止められてしまう。 だからこそ遠距離でしのぶたちに援護してもらう必要があるのだが、それも今は望めない。「た、大志……」
đang được dịch, vui lòng đợi..
